日本レコード大賞が創設以来の歴史的転換期を迎えたとされるのが、2021年に開催された第63回大会です。音楽視聴の主軸がCDパッケージからストリーミング配信へと完全に移行しつつあった当時、メディアの下馬評では前年に『炎』で大賞を獲得したLiSAの2連覇や、社会現象を巻き起こしたNiziUの快進撃が有力視されていました。しかし、12月30日の新国立劇場中劇場で最終的にコールされたのは、男性5人組ダンス&ボーカルグループ・Da-iCEの『CITRUS』でした。
下馬評を覆したこの決定は、なぜ下されたのか。当時のノミネート状況や新人賞争いの内幕、そして選考委員が下した決断の背景を、公式データと音楽業界の構造変化を踏まえて検証します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:2021年の大賞予想ではLiSA『明け星』とNiziU『Take a picture』が二強と目されていたが、Da-iCE『CITRUS』が男性ダンス&ボーカルグループとして初の戴冠を果たす大波乱となった。
- 要点2:最優秀新人賞は熱狂的なファンダムを持つINIを抑え、ストリーミング市場で幅広い層へ楽曲を浸透させたロックバンド・マカロニえんぴつが選出された。
- 要点3:CD売上枚数や事務所の政治力に偏重していた選考から、ストリーミング再生数やSNSでの草の根的な大衆浸透度を重んじる方向へ、審査基準の質的転換が明確に示された。
【第63回日本レコード大賞】2021年予想の本命・対抗馬とノミネート全貌
2021年11月19日、主催である公益社団法人日本作曲家協会および日本レコード大賞制定委員会から、優秀作品賞10作品と新人賞4組が発表されました。大賞候補となる優秀作品賞に名を連ねたのは、以下の10作です。
・純烈『君がそばにいるから』
・乃木坂46『ごめんねFingers crossed』
・Da-iCE『CITRUS』
・NiziU『Take a picture』
・DA PUMP『Dream on the street』
・AKB48『根も葉もRumor』
・三浦大知『Backwards』
・氷川きよし『南風』
・LiSA『明け星』
・Awesome City Club『勿忘』
ノミネート発表直後、スポーツ各紙や大手ウェブメディアの予想合戦はヒートアップしました。本命筆頭として挙げられたのは、テレビアニメ『鬼滅の刃 無限列車編』のオープニングテーマとなったLiSAの『明け星』でした。前年の第62回大賞に続く2連覇の期待がかかり、作品の知名度・話題性ともに頭一つ抜けていると目されていました。
対抗馬として急浮上したのが、前年に特別賞を受賞し、デビューシングルに続いてコカ・コーラのCMソングとして大ヒットを記録したNiziUの『Take a picture』です。女性グループとして史上最速の大賞獲得なるかというアングルで、ワイドショーなどでも盛んに取り上げられました。さらに、映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソングとしてストリーミング3億回再生を突破していたAwesome City Clubの『勿忘』や、ミリオンセラーを維持する乃木坂46も有力候補に挙げられており、当時の予想記事においてDa-iCEを単独本命に据えたメディアは極めて少数派でした。
大賞本命と最優秀新人賞予想の真相|有力候補の選考理由と結果の裏側
音楽ファンの間で巻き起こった「レコード大賞2021予想」の焦点は、大賞の本命対決のみならず、最優秀新人賞の行方にも集中していました。新人賞にノミネートされたのは、INI、TAEKO、マカロニえんぴつ、望月琉叶の4組でした。
当時、最大の注目はサバイバルオーディション番組発のグローバルボーイズグループ・INIと、若者を中心に爆発的な支持を集めていたポップロックバンド・マカロニえんぴつの一騎打ちでした。デビューシングルでハーフミリオンを超える初週売上を記録し、圧倒的な熱量を持つファンベースを武器にしたINIに対し、マカロニえんぴつは『はしりがき』『なんでもないよ、』などでストリーミングチャートの上位を独占していました。
結果として最優秀新人賞に輝いたのはマカロニえんぴつでした。授賞式でボーカルのはっとり氏は「獲れると思っていました。父さん、母さん、獲ったよ!」と歓喜の声を上げましたが、この選考は審査員が「CDの売上枚数(ファンダムの購買力)」よりも「ストリーミングにおける大衆への広がり」を明確に評価した最初の象徴的シグナルとなりました。
そして番組クライマックスの大賞発表。ジョン・カビラ氏によるタイトルコールで読み上げられたのは、大方のメディア予想を覆すDa-iCEの『CITRUS』でした。日本テレビ系ドラマ『極主夫道』の主題歌として2020年10月に配信リリースされた同曲は、発売から約1年をかけてTikTokのカバー動画やYouTubeの「THE FIRST TAKE」出演を機にバイラルヒットし、日本人男性ダンス&ボーカルグループ史上初となるストリーミング累計1億回再生を突破していました。選考委員会は、短期的なチャートアクションではなく、1年間を通じて楽曲そのものが生活者の間に定着していった「ロングヒットの力学」を大賞の決定打としたのです。
【データ比較】2021年ノミネート主要作の実績と選考指標の検証
当時の大賞候補作が持っていた客観的データと、選考委員会の判断基準を整理すると、レコ大が抱えていた評価軸のジレンマが浮き彫りになります。
| アーティスト/楽曲 | 指標データ(2021年当時) | 当時のメディア予想 | 実際の受賞結果・選考要因 |
|---|---|---|---|
| Da-iCE 『CITRUS』 | ストリーミング累計1億回突破 TikTok総再生数数億回 | 大穴〜連下 (ダンスグループ初の壁) | 【第63回日本レコード大賞 受賞】 歌唱力・表現力および年間を通じた草の根浸透度を高く評価。 |
| LiSA 『明け星』 | デジタルシングル週間1位 国民的アニメ主題歌タイアップ | 本命 (前年に続く2連覇有力視) | 優秀作品賞 楽曲のリリース時期が秋口であり、通年での広がりで一歩譲ったとの分析。 |
| NiziU 『Take a picture』 | ストリーミング累計1億回突破 CD売上30万枚超 | 対抗 (若年層トレンドの筆頭) | 優秀作品賞 社会現象級の勢いはあったが、芸術的完成度の比較で惜敗。 |
| 乃木坂46 『ごめんねFingers crossed』 | CD売上ミリオン迫る(年間上位) MV再生数高水準 | 単穴 (過去2度の大賞実績) | 優秀作品賞 固定ファン層以外の一般リスナー層への広がりという基準で伸び悩む。 |
| マカロニえんぴつ 『なんでもないよ、』他 | ストリーミングチャート上位常連 主要フェス入場規制 | 新人賞本命 (配信強者としての評価) | 【最優秀新人賞 受賞】 楽曲提供や歌詞世界の共感性、次世代バンドシーンの牽引役として選出。 |
表から明らかなように、2021年は「CDセールス至上主義」の終焉が決定づけられた年でした。乃木坂46やAKB48といったミリオンセラーを連発する女性アイドルグループがCD市場を席巻する一方で、ビルボード・ジャパンの年間チャートやストリーミング市場ではDa-iCE、Awesome City Club、マカロニえんぴつといった配信主体のアーティストが圧倒的な聴取時間を獲得していました。選考委員会は、CD売上という単一のモノサシを捨て、ストリーミングという新たな大衆指標を直視せざるを得なくなったのです。
【実態検証】ネットの反応と業界関係者が明かす「異例の選考」のリアル
生放送直後のネット上の反応は、まさに賛否が二分する激しい揺れを見せました。Twitter(現X)のトレンドランキングでは「Da-iCE」「レコ大」「CITRUS」が上位を独占。「結成10年目の苦労人が報われた」「生歌のピッチと声量が凄まじかった」と実力派の戴冠を祝福する声が溢れた一方で、「テレビで曲を聴いたことがない」「なぜLiSAでもNiziUでもないのか」といった戸惑いの声も少なくありませんでした。
報道関係者や音楽評論家の間でも、この結果は驚きをもって受け止められました。当時、スポーツ紙の芸能担当デスクは次のように舞台裏を語っています。
「前年のLiSAさんの受賞で、アニメタイアップとストリーミングの爆発力が認められた。2021年の審査会では、単に話題のピークを迎えた瞬間風速の曲を選ぶのか、それとも泥臭く全国を回り、1年間かけて一般層に歌い継がれた曲を選ぶのかで議論が紛糾した。Da-iCEはエイベックス所属でありながら、ドームクラスの会場を即完させる派手な売り方ではなく、ライブハウスから地道に実力を積み上げてきたグループ。ボーカル2名(大野雄大・花村想太)の4オクターブに及ぶ圧倒的な生歌唱力は、テレビ東京系やTBSの音楽特番でも際立っており、審査員席の重鎮たちを唸らせた」
受賞直後の特番インタビューで、メンバーの花村想太氏は涙を流しながら「僕たちは決してエリートコースを歩んできたわけではありません。何度も挫折しそうになりながら、ファンとスタッフを信じて歌い続けてきました」と語りました。この生々しい告白は、単なるプロモーションの産物ではない、現場で叩き上げられたグループの自負を物語っていました。
一般に知られていない盲点とネットの誤解|「出来レース説」の構造的検証
日本レコード大賞をめぐっては、長年にわたり「芸能事務所の力関係で決まる出来レース」「大手レコード会社の持ち回り」という疑念がインターネット掲示板やSNSで根強く囁かれてきました。過去の週刊誌報道などがその心証を強めていた歴史も否定できません。
しかし、2021年の結果を冷静に紐解くと、従来の「出来レース説」の文脈では到底説明がつかない構造が存在します。
第1に、男性ダンス&ボーカルグループが大賞を受賞したのは、レコ大史上初めての出来事でした。長年このジャンルで圧倒的なシェアを誇ってきた旧ジャニーズ事務所(現STARTO ENTERTAINMENT)は、1990年の忍者の受賞辞退以降、賞レースへのノミネートそのものを原則として辞退する方針を貫いていました。もし旧来の「業界忖度」が働いていたとすれば、他事務所の男性ダンスグループを大賞に据えることは業界政治的に最も摩擦を生みやすい選択肢でした。そのタブーを破ってDa-iCEを選出した事実は、むしろ選考委員会が外部の政治力学から距離を置こうとした証左といえます。
第2に、公式選考基準の厳密な運用です。日本レコード大賞の規定には「日本作曲家協会が選考する大賞は、社会的に広く親しまれ、大衆の支持を得て、その年度を代表すると認められた作品に贈る」と明記されています。2021年における『CITRUS』は、カラオケランキングでもトップクラスを維持し、一般リスナーが「自ら歌い、動画を投稿する」という参加型の大衆支持を獲得していました。受動的に聴かされるヒットではなく、能動的に歌われるヒットであったという事実こそ、審査規定の根幹に合致していたのです。
【プロの結論】音楽賞の権威と大衆意識のギャップから学ぶべき教訓
かつて昭和から平成初期にかけて、レコ大は家族全員が茶の間に集まり、誰もが口ずさめる「国民的ヒット曲」を決定する共通体験の場でした。しかし、ストリーミングとアルゴリズムによる音楽消費が定着した現代において、1億人全員が知っている単一のヒット曲はもはや構造的に生まれにくくなっています。音楽の聴かれ方が「パーソナライズ(タコツボ化)」した社会では、どんな曲が大賞を獲っても「自分の知らない曲だ」と感じる層が一定数生まれるのは不可避の現実です。
音楽アワードの権威や予想を楽しむにあたり、リスナーは以下の視点を持つことが推奨されます。
【音楽賞の価値を前向きに楽しめる人の特徴】
・チャートのアルゴリズムから外れた、隠れた名曲や実力派アーティストとの「偶発的な出会い」を楽しめる人。
・CD売上、ストリーミング再生、カラオケ歌唱など、多様化するヒット指標の複合的な評価プロセスに興味がある人。
・地上波生放送での一発勝負の生歌・パフォーマンスの緊張感を愛せる人。
【音楽賞の受容に慎重になるべき人の特徴】
・自分の推しアーティストの売上枚数や順位こそが絶対的な正義であると考える人。
・「自分の知らない楽曲=価値のない楽曲」と捉えてしまい、選考結果に対して過度な陰謀論を抱きがちな人。
・すべての国民が一致して納得する「唯一絶対の国民的ヒット曲」が存在するはずだと幻想を抱いている人。
【レコード大賞 2021 予想】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:レコード大賞2021でDa-iCEが大賞を受賞した最大の決め手は何ですか?
A1:最大の決め手は、ドラマ主題歌起用から1年間をかけてTikTokやYouTube等で草の根的に拡散され、男性ダンス&ボーカルグループとして初のストリーミング累計1億回再生を達成した「持続的な大衆浸透度」です。さらに、メンバー2名による圧倒的な生歌唱力と、結成10年間の地道な活動実績が審査員から高く評価されました。
Q2:2021年の最優秀新人賞でマカロニえんぴつがINIを抑えて受賞した背景は?
A2:INIは初週ハーフミリオンという圧倒的なCDセールスを記録しましたが、マカロニえんぴつは『なんでもないよ、』などでストリーミングチャートの上位を席巻し、特定のファン層を超えた幅広い世代のリスナーに聴かれていました。選考委員会が「CDの初動購買力」よりも「ストリーミングにおける大衆への広がり」を重視した結果といえます。
Q3:日本レコード大賞の公式な選考基準とはどのようなものですか?
A3:主催の日本作曲家協会が定める基準では、「大衆の支持を得て、その年度を代表すると認められた作品」「芸術性、独創性、企画性が顕著な作品」「優れた歌唱力によって生かされた作品」の3点が求められます。単なる売上枚数だけでなく、楽曲の完成度や歌唱パフォーマンスの質が厳密に問われます。
まとめ:変革期のレコ大が示した音楽シーンの新たな針路
第63回日本レコード大賞は、長年続いた「CDセールス至上主義」や「芸能界のパワーバランス」に依存した選考からの脱却を鮮烈に印象づけたターニングポイントでした。事前の下馬評で本命視されていたLiSAやNiziUの敗幕、そしてDa-iCEとマカロニえんぴつの栄冠は、音楽が人々に届くルートが完全にデジタルシフトした現実を公式に追認した瞬間でもありました。
多様化し、細分化された音楽シーンにおいて、賞レースの意義そのものが問い直されています。しかし、データと生歌の実力で下馬評を覆した2021年のドラマは、愚直に実力を磨き続けた表現者が正当に報われる可能性を音楽業界に提示しました。この激動の選考劇こそが、現代の音楽賞が目指すべきひとつの指標を刻みつけたといえます。 (出典: レコード大賞 2021 予想(Yahoo!ニュース))