料理を愛する女性と食べることを愛する女性の温かい交流を描き、NHK夜ドラでの実写化も大きな反響を呼んだ『作りたい女と食べたい女』(通称:つくたべ)。しかし、検索エンジンのサジェストやSNSのタイムライン上では、「気持ち悪い」「苦手」「百合詐欺」「説教臭い」といった極めて厳しいワードが頻繁に散見されます。
日常の癒やし系グルメ漫画として手に取った読者と、シスターフッドやクィア・フェミニズムの文脈を重層的に描こうとする物語の間で、どのような摩擦が起きているのでしょうか。ネット上で激しい賛否両論が巻き起こる決定的な要因と、原作者・ゆざきさかお氏が挑むテーマの真相について、多角的なデータと読者のリアルな声を交えて解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「気持ち悪い」という反発の根底には、ほのぼの日常グルメ漫画から重厚な社会派・クィア当事者ドラマへの作風転換に対する読者の当惑がある。
- 要点2:ファンタジーとしての百合を求めた読者による「百合詐欺」批判と、現実のレズビアン当事者の生きづらさに寄り添う描写の間で深い断絶が生じている。
- 要点3:生理の貧困や家父長制、婚姻制度などの政治的テーマの導入によって、「癒やし」を求めていた層の離脱と熱烈な支持層の二極化が加速している。
なぜ「気持ち悪い」と検索されるのか?違和感を生む決定的な理由
『作りたい女と食べたい女』に対して「気持ち悪い」という拒絶反応を示す読者が現れる背景には、読者の無意識な「期待値」と作品が提示する「生々しいリアリズム」との激しい衝突が存在します。
初期のプロットは、料理をたくさん作りたい野本さんと、豪快に美味しそうに食べる春日さんという、シンプルで多幸感あふれるルームシェア的一コマを中心に展開していました。多くの読者はこの関係性に、ストレスフリーな「飯テロ日常系エンタメ」としての安心感を求めていたのです。
しかし物語が進むにつれ、野本さんが自身のセクシュアリティを自覚していくプロセスや、春日さんが抱える機能不全家族・家父長制による搾取といった、痛みを伴う現実の社会問題が前面に押し出されるようになりました。心理学において人間は、無害なファンタジーを期待していた空間に生々しい政治性や性自認のリアルを突きつけられた際、自己防衛として「違和感」や「気味の悪さ」を覚える傾向があります。これがネット上で「気持ち悪い」という検索クエリへと直結した主要因です。
「百合詐欺」批判とフェミニズム描写|読者の間で起きた論争の構図
本作を巡る論争の中で、特にコミックファンから噴出したのが「百合詐欺」という痛烈な批判です。この言葉の背景には、日本のポップカルチャーにおける「百合(ガールズラブ)」と「現実のレズビアン表象」の間に横たわる構造的な断絶があります。
従来の百合ジャンルでは、女性同士の精神的な結びつきや清純な関係性が、現実の政治性や社会課題から切り離された一種のユートピア(無菌室)として消費されてきた歴史があります。しかし、原作者のゆざきさかお氏は、そうした消費的な眼差しを拒絶するかのように、野本さんのレズビアンとしての自覚、性的指向に対する葛藤、そして現実社会における制度的障壁を極めてリアルに描写しました。
さらに、作中で描かれる登場人物たちの対話劇に対して「フェミニズムの教科書を読まされているようで説教臭い」という批判も相次ぎました。特に以下の描写が論争の火種となっています。
- 外食産業におけるジェンダーバイアス:「女性だから」とご飯の量を減らされる理不尽さへの抗議
- 生理の貧困と身体の苦痛:日常グルメ作品の枠組みを越えた、リアルな月経描写や体調不良の可視化
- 婚姻制度とパートナーシップ:異性愛規範に基づいた法制度への疑問や同性婚に関する問題意識の表出
社会構造に起因する生きづらさを鋭く突く描写は、当事者層やジェンダー問題に関心の高い層から「これほど誠実に現実を描いた作品はない」と絶賛される一方で、純粋なフィクションの快楽を求めていた層にとっては「作品を利用した思想の押し付け」と受け取られ、激しい賛否両論を巻き起こしました。
【データ徹底比較】『つくたべ』初期と現在における読者評価の変遷
連載開始当初から現在に至るまで、作品の評価軸はどのように変化したのか。物語のフェーズごとに読者の受け止め方と批評の推移を整理しました。
| フェーズ・巻数 | 作風と主な描写テーマ | 読者の主な反応・SNS傾向 | 編集部の客観分析 |
|---|---|---|---|
| 第1巻〜第2巻 (初期展開) | 大皿料理の調理、食べる喜び、隣人同士の心温まる日常交流 | 「飯テロ漫画として最高」「癒やされる」「絵が丁寧で好感が持てる」 | グルメ×シスターフッドとして広範な読者層を獲得。一般受けが最も高かった時期。 |
| 第3巻〜第4巻 (転換期) | 野本さんの性的指向の自覚、アセクシャル・アロマンティックの登場人物 | 「百合だと思ったらガチのクィア作品だった」「急に展開が重くなった」 | 作品のコアテーマが明確化。エンタメ重視層の一部で脱落が始まる。 |
| 第5巻〜第6巻以降 (社会派深化) | 家族からの精神的虐待、住宅契約の障壁、制度的課題への言及 | 「#さよならつくたべ 等の離脱」「社会派として真摯」「説教臭くて苦痛」 | 評価が完全に二極化。娯楽性を求める読者が離脱し、熱心な理念支持層が強固に残る。 |
連載サイト(ComicWalker等)で第49話が公開された際には、ストーリーの社会派シフトを巡ってSNS上で「#さよならつくたべ」というハッシュタグが登場するなど、長年の読者の間でも失望と訣別の声が顕在化しました。これは作品のクオリティ自体の低下というよりも、連載初期に提示された契約(日常グルメコメディ)と、作品が目指したゴール(現実社会への批評性)の乖離が決定的になった結果と言えます。
NHK夜ドラ版の評判と原作漫画のギャップ|実写化がもたらした光と影
NHK「夜ドラ」枠で放送された実写ドラマ版(主演:比嘉愛未、西野恵未)は、放送文化基金賞など複数の賞を受賞し、メディアや批評家筋から極めて高い評価を受けました。
ドラマ版が高評価を得た理由は、ジェンダー表現に対する丁寧なリサーチと、性的マイノリティの監修を適切に入れた制作体制にあります。特に野本さんが抱く他者への好意と戸惑い、春日さんの静かな佇まいと心の機微が繊細に映像化され、「地上波ドラマとして極めて先進的かつ誠実なクィア・ドラマ」として絶賛されました。
しかしその一方で、テレビドラマという大衆媒体に乗ったことで、原作を未読だった一般視聴者からの拒絶反応も可視化されることになりました。「夜の15分枠で気軽な美味しいご飯を観たかったのに、重たい社会問題や性の葛藤を見せられて疲れる」という感想が噴出。実写の生々しい役者の演技を通じてメッセージがダイレクトに伝わった結果、良くも悪くも作品の「尖った思想性」がお茶の間に強い違和感を残すことになったのです。
【実態検証】SNS・レビューサイトに集まるネットのリアルな声
ネット上の掲示板(ガールズちゃんねる等)やレビュープラットフォームに集まる読者の口コミを徹底調査すると、読者層が真っ二つに割れている実態が浮き彫りになります。
支持層の感想には、自分自身の生きづらさを肯定されたという深い安堵の声が目立ちます。
「地方出身で家父長制の抑圧に苦しんできた自分にとって、春日さんのエピソードは他人事ではなかった。漫画が私の痛みを代弁してくれたと感じた」
「ただのファンタジー百合に逃げず、女性ふたりが現実で部屋を借りて暮らす困難まで描いてくれるからこそ信用できる」
対照的に、否定派や途中離脱した層からは、作中の空気感の変質に対する疲弊が語られています。
「1〜2巻の頃の、湯気が立ち上る料理をふたりで美味しそうに頬張る姿が好きだった。いつの間にか政治やジェンダーの愚痴ばかりになり、読んでいて息が詰まる」
「男性キャラクターが全員記号的な加害者や理解のない存在として配置されているように見えてしまい、偏りを感じて苦手になった」
ガールズちゃんねるなどでは、あまりの論争の激しさに「アンチ禁止トピック」が別に立てられるなど、ファンダム内での棲み分けと緊張関係が続いています。
一般に知られていない盲点とネットの誤解
ネット上の批判で散見される「作者が途中で思想に目覚めて作風を変えた」「人気が出てからフェミニズム作品に改悪された」という言説は、完全な事実誤認です。
原作者のゆざきさかお氏は、連載開始当初から本作を「シスターフッドおよびレズビアンのロマンス作品」として描く意図を明確にしていました。第1話の段階から、野本さんが職場の男性社員から受ける無意識のマイクロアグレッション(「いいお母さんになるね」という言葉)に対する居心地の悪さが明確に描かれています。
誤解が生じた構造的な原因は、出版・プロモーション側のマーケティング戦略にありました。連載開始時、多くのメディアや電子書籍ストアは本作を「美味しそうなご飯を通じた心温まる女性同士の友情漫画」という、間口の広いキャッチコピーで宣伝しました。この広報戦略によって集まった「日常癒やし系グルメ層」と、作者が当初から構想していた「現実社会の摩擦を描くクィア作品」という本来のテーマとの間に致命的なギャップが生じてしまったのです。
【プロの結論】おすすめできる人・慎重になるべき人の判断基準
社会学やジェンダー表象の観点から本作を総括すると、『作りたい女と食べたい女』は消費文化に対する明確な批評性を持った意欲作であり、読者のスタンスによって評価が180度分かれるのは必然の構造と言えます。
無用なストレスや読書体験のミスマッチを避けるため、本作に触れる際の明確な判断基準を提示します。
本作を心からおすすめできる人
- 社会構造と個人の葛藤をリアルに描く作品が好きな人:制度や家族の問題と向き合い、自立を模索する女性たちの歩みを応援したい読者。
- 当事者性に寄り添ったクィア・ロマンスを読みたい人:ファンタジーではなく、現実の日本社会に生きる性的マイノリティの生活や感情を誠実に追体験したい読者。
- キャラクター同士の対話による心理的バウンダリー(境界線)の構築を見届けたい人:共依存に陥らず、対等なパートナーシップを築くプロセスを重視する読者。
購読・視聴に慎重になるべき人
- 純粋な「癒やし」や「美味しそうなご飯」だけを求めている人:仕事終わりや就寝前に、重い社会問題に触れずストレスから解放されたい読者。
- 記号化された「美少女同士のライトな百合」を楽しみたい人:現実の性自認の悩みや政治的言説を含まない、純粋な関係性の萌えを消費したい読者。
- 作中にフェミニズム思想や啓発的なメッセージが入ることに抵抗感がある人:説教臭いトーンや社会批判的な描写に対して強いアレルギーを覚える読者。
【作りたい女と食べたい女 気持ち 悪い】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:なぜ「百合詐欺」と言われて炎上したのですか?
A1:連載初期のプロモーションが「女性同士の温かい日常グルメ」として打ち出されていたため、無害な百合ファンタジーを期待した読者が多く流入しました。その後、本格的なレズビアン描写や現実の社会制度批判が展開されたことで、「期待していたものと違う」「騙された」と感じた層から批判が上がりました。
Q2:NHKのドラマ版も「気持ち悪い」と言われているのですか?
A2:ドラマ版は演出の丁寧さや性的マイノリティ考証の誠実さが高く評価され、国内外の賞を受賞するなど概ね絶賛されました。ただし、地上波夜ドラという枠組みで鑑賞した一部の一般視聴者からは、重たい社会派テーマや生々しい葛藤描写に対して「観ていて疲れる」「説教臭い」といった否定的な声も一部で見られました。
Q3:単行本5巻や6巻以降、作風はどうなっていますか?
A3:春日さんの実家との関係(機能不全家族の問題)や、ふたりが一緒に住むための部屋探し(同性カップルが直面する住宅差別の壁)など、現実社会のリアルな障壁と向き合うエピソードが本格化しています。料理シーンも健在ですが、初期のような能天気な日常劇ではなく、自立と連帯を掴み取るための重厚な人間ドラマへと深まっています。
まとめ:今後の動向と作品を楽しむための視点
『作りたい女と食べたい女』に向けられる「気持ち悪い」という評価は、作品自体の破綻を意味するものではなく、大衆消費エンタメの枠組みと、鋭利な社会批評性が真っ向からぶつかり合った必然的な摩擦です。
安らぎと癒やしを提供するファンタジーとして消費したい読者にとって、現実の痛みを突きつける本作の作風は受け入れがたいものかもしれません。しかし、これまで既存の商業漫画が見落としてきた「現実に生きる女性たちの生活と連帯」を真正面から描き切ろうとするゆざきさかお氏の筆致は、日本の漫画史において極めて重要な足跡を残しています。
本作を手に取る際は、「ほのぼのグルメ漫画」という初期のイメージを一度リセットし、自立と尊重をめぐる重厚な人間ドラマとして向き合うことこそが、本作の真価を最も正しく受け止めるアプローチと言えます。 (出典: 作りたい女と食べたい女 気持ち 悪い(Yahoo!ニュース))